溺死しかけたハクビシンを助けた話。
先日のこと、我が家の庭の甕(かめ)にハクビシンが落っこちて溺れかけていました。やつをレスキューした顛末とその時に感じたことが今日の話題です。
我が家は古い日本家屋でして。庭にはいくつか水が張られた甕があります。先日のこと、夕ご飯が終わってトイレに立つと庭の甕のほうからちゃぷちゃぷと音がしています。きっとタヌキか何か小動物が水を飲みにきたのかな、と思いました。暑いしね、しばらく雨が降っていないし、好きなだけ飲みなさい、と思いそのまま放っておきました。家族には「タヌキかなんかが水を飲みに来ているみたいだよ」とだけ一言伝えました。
皆、ふーん、という大した反応なし。
しばらくして、妻も手洗いにいくと、やはり、外でまだちゃぷちゃぷ音がしているとのこと…。
そして、嫌な予感がよぎりました。そういえば、その甕では数年前に鳩かなんかが溺れて死んで数日経って水の中で腐っていたことがあったのです。あ、何かが溺れているのかもしれない…。
嫌だなーと思って庭に出るとやはり、まだちゃぷちゃぷしてる。あー、あー、嫌だなーーと思って恐る恐る甕の方に向かうと…。いた。
たぶん、ハクビシン。タヌキではない。かわいい顔の小動物が甕に落っこちて、掴まるところが無くて上がれなくてワチャワチャしている。水を飲もうと近寄って落っこちちゃったんだろうな。
まだ生きてる。そこらへんにあった長い角材を渡して手がかりを作ってやろうと甕に近づくと、奴はものすごい勢いで怒ってすごんでくる。
グゥワウーーーーーーー、グゥワウーーーーーー。グワッグワッグワゥーーー。
完全に敵。ワタクシはあなたを助けようと真っ暗な庭で必死になって角材を渡しているのです。あなたの味方です。でもやつからすると、自分を捉えに来た天敵にしか見えないみたい。お前、誤解している場合じゃないぞ、死んじゃうぞ。こっちも必死で声がけするのだけど、もちろん通じない。
そうこうしているうちに、やつは力尽きました。たぶん、動き回り、暴れているうちに水を飲みすぎたのでしょう。あるいは肺に水が入ってしまったのかもしれません。急に動きが緩慢になりました。すると今度は徐々に体が沈んでいく…。
ああ、ダメだ!死んじゃう!
こっちもなんだかわからないけど必死です。わけわからない言葉を叫びながら悪戦苦闘してたら、やつの身体が角材に引っかかって、なんとか引き上げることができました。小さいのに重たい…。甕の外に出すとまさに「虫の息」。数分前まであんなにすごんでいたやつが、くーん、くーん、とか細い声を上げながら、ぐだっとなっています。
ああ、ダメだったか。間に合わなかったか…。
あふれ出る徒労感。まあそれが君の運命だったのよね。私はがんばりました。明日の朝、埋めてあげるよ。と、肩を落として家に入り、寝ました。くーん、くーんという声が耳から離れません…。
次の日、重たい気持でやつの倒れていた場所を見に行くといない。
きれいさっぱりいない。カラスにつつかれたにしてはきれいすぎ。他の動物がもっていくにしては大きすぎ。やつは(たぶん)助かったんだな。助かってどこかに歩いて逃げて行ったんだな。よかった。
ハクビシン。このあたりじゃ害獣扱いだし、そんな小動物の命ひとつで何をそんなに大騒ぎしているんだ…、という感じですね。何なんでしょう、この感じは。アタクシは単なるお人よしか。あるいは、目の前の助けられる命は助けたい、と思うのは生物としての本能なのかしら。
そういえば、浦島太郎にしても、鶴の恩返しにしても、文福茶釜にしても、舌切り雀にしても…、日本の昔話には動物を助けるお話が随分ありますわね。
まあハクビシンが恩返しに来る気配はまるでありませんが…。
そうそう、ちょうど昨日、シャワーを浴びようとしたらお風呂場の床を虫が這ってる。よく見るとそれはゴキブリの子どもなのだけど、自分のシャワーで彼を殺してしまうのが忍びなくて、やつが安全地帯に移動するのを待ってからシャワーを浴びました。
ちなみに私は家の中でゴキブリを見てもそっと逃がす派です。そんな私は家族からは異端者として、火あぶりにかけられそうな扱いをされております。
こんなことを書いていると、やなせたかしさんのあの名曲が頭の中をまわります。
ミミズだって、オケラだって、アメンボだって
みんなみんな、生きているんだ友達なんだ
この感覚は小さなころから、おじさんになったいまも変わらないよなぁ…。

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