「美白」全盛の昨今に私が「色黒」な理由。

「なんでそんなに色白なの。外で遊んできなさい!」小学生時代の夏休み、どちらかというと室内で遊ぶのが好きだったワタシが母から幾度となく掛けられた言葉です。あれから40年、母さん、僕はすっかり色黒になりました。
塚越暁 2025.09.23
誰でも

「なんでそんなに色白なの。外で遊んできなさい!」小学生時代の夏休み、どちらかというと室内で遊ぶのが好きだったワタシが母から幾度となく掛けられた言葉です。あれから40年、母さん、僕はすっかり色黒になりました。

原っぱ大学ガクチョー、とか言って、今ではすっかり肉体労働者、屋外で動き回ることが生業になっている私ですが、小学生の頃は本当にインドア遊びが好きでした。このコラムでも何度も書いていますが、私はっ球技が大の苦手、走るのも遅かったし、鉄棒も跳び箱もできませんでした(逆上がりが初めてできたのは高校生のとき)。だから、「運動」と名の付くものは基本的に大嫌いだったし、できれば家の中で遊んでいたかった。

ただ、ファミコンもゲームボーイも買ってもらえなかったので、基本的には「妄想」が私の遊びでした。ガチャガチャで手に入るSDガンダムの塩ビ人形や、お菓子の付録で集めた「ネクロスの要塞」の人形たち(←ネクロスの要塞、知っている人います?暖めると色が変わる異世界の人形たちです)を集めて並べて、戦いごっこです。ダンボール箱や枕を峠や城に見立てて、たくさんの人形同士が戦いあうバトルフィールド。そこで私と人形たちはいつ果てるともなく戦いに明け暮れておりました。

だから、基本的には外なんか行きたくない。夏休みは自分の部屋にこもって、自分の妄想に浸るのが一番の幸せです。

そして、生来の色白の私。運動が苦手なぽっちゃり体系で、基本は家の中で過ごしたいから夏休みでも真っ白だったのでしょう…。そんな私に向かって冒頭の暴言(?)を母はぶつけるのであります。今でこそ色が白いことが美しいとされる世の中ですが、昭和の当時の逗子では、黒く日焼けしていることが人間の証。色が白いということで私は迫害を受けていたのであります…。

そんなわけで、夏休みに家で過ごしていると私は怒られ、屋外に放り出され、半ば強制的に日光の光に晒されました。

40年の時が流れて、私は夏の間、すっかり太陽のもとで活動するようになりました。世の中は美白全盛の時代。紫外線が身体に与える悪影響がたくさん語られ、日焼け対策が大事だと言われ続ける2020年代においても、私はお肌のケアをしないままに太陽の光を浴び続け、肌は異様に黒ずんでおります…。

別に積極的に日焼けしたいわけではないし、仕事柄、仕方ない側面も大きいのですが、それにしても我ながら対策がいい加減。最近は帽子をかぶったり、半袖シャツを着たりしておりますが、それを越えてはなかなか日焼け対策に意識が向かないのであります。

先日のこと、夏の終わりに80歳を超えた母と夕ご飯を一緒に食べていました。母が私の顔を眺めてしみじみと「黒いわねーー」と素朴な感想をつぶやいたのです。そのつぶやきと共に、40年前の夏の母の言葉がフラッシュバックしました。

ああ、私はあの当時の母の言葉を内在化していたのか…。「日焼けして黒くなくては人間ではない」ということをたぶん、呪縛のように自分の中に内面化していたのか…。だから日焼け対策ができないのか(ただずぼらなだけかもしれませんが…)。

母はそんな些細な、でも強烈な「縛り」を僕に課していたことはとうに忘れてしまっているでしょう(僕もその瞬間まで忘れていました)。それでも、私は母の言いつけを40年間きちんと守り続けていたのです。50歳間近のオジサンになっても…。

こういうことはきっとたくさんあるんでしょうね。

発した側にとっては何気ない一言でも受け手側にとっては何十年も残りつづけるものになってしまうこと。しかも本人はそのことを意識すらしないままに…。考えようによっては恐ろしいこと。だけど一方でそういう他者との関りのなかで人は影響を与え合いながら生きている、と捉えるとそれはそれで悪いことではないような気もします。生きている証。人と関わり合った証。母のメッセージを僕が受け取った証。

その証を「呪い」と受け取るか、「祝福」と受け取るかはきっと本人次第。

私はまあ、この時代錯誤な真っ黒な自分が嫌いではないですし、母からの祝福だと思って受け入れていこうと思います(日焼け対策ができない自分への言い訳です、はい)。

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