オジサン、「原付バイク」デビューする。

運転免許を取得して30年近く。はじめて原付バイク的なものを手に入れまして若葉マークの気持ちで公道を走る日々でございます。そんな毎日で得た小さな気付きについて。
塚越暁 2025.09.16
誰でも

運転免許を取得して30年近く。はじめて原付バイク的なものを手に入れまして若葉マークの気持ちで公道を走る日々でございます。そんな毎日で得た小さな気付きについて。

ワタクシ、生来のどんくささを自認しておりまして、「バイク」なるものに乗れる気がしませんでした。なぜわざわざ生身の身体をさらしてあんなに超高速で走るのか。ぶつかったら飛んで行ってしまいそうだし、そもそも2つの細い車輪だけで自立する意味がよくわからない…。そんなわけで、バイクは私の人生とは無縁の存在でした。

ただ、原付バイクはそこはかとなく、欲しいと思い続けていたんです。私の長年の趣味はサーフィン。波乗りに行くときの移動手段はボロボロのママチャリ号か、同じくボロボロの軽バンです。海が近いこともあり、それほど不自由はしていなかったのですが、周囲のサーファーたちは原付バイクの脇にサーフボードを乗せて身軽に縦横無尽に海岸線を行き来している(逗子鎌倉エリアの風物詩です)。渋滞をものともしないし、気軽に、自転車よりも早くあちこち移動できる。正直、うらやましがりながらも自分とは無縁の代物と思い、指をくわえて見ていました。

数年前に存在を知って、それ以来、なんとなく乗りたいな…、と思っていたのがホンダが出している「ジャイロ」という三輪の原付バイクのシリーズ。ピザ屋さんとかウーバーとかのドライバーが乗っているやつですね。これが見た目がかわいいし、なにより「三輪」だといかに僕がどんくさくても転ばないではないか、と欲しくなってしまったのであります…。

ただ、バイク知識がないので、ヤフオクで落札するのも怖いし、わざわざお店に行くのも面倒くさい…。そんなわけで、欲しいと思っても手が出ないまま月日が流れておりました。

先日のこと、たまたま、友人が中古ジャイロのカスタムを何台も手掛けていて、しかも1台、在庫があるという話を聞きまして。なんとなくタイミングが合って見せてもらったらかっこいい。おそるおそる試乗してみたらこれまたなんか僕でも乗れそう…。あれよ、あれよと話が決まりまして、急遽、我が家にジャイロがやってくる次第になったのであります。

ちなみに、我が家的にはこの三輪バイクはサーフィン専用ではなく、津波や大地震の災害が襲ってきたときに隣に住む高齢の母を乗せて高台に避難する緊急避難用バイクの位置づけなのであります、はい。

そんなわけで、おっかなびっくり、ジャイロで公道を走ると…、最高に気持ちいい。

ぬーすんだバイクで走りだす―♪(盗んでいませんが…)。と歌い出す気持ちがよく分かる。

なるほど、車とも自転車とも違う爽快感がそこにあるのね!!このバイクで走る感じが楽しくて、これまで自転車で移動していたちょっとした買い物にもジャイロ号で出動してしまいます。たのしい!

ただ、このバイクで海に向かうためにはハードルが2つ。

1つ、サーフボードを横にくっつけて走る必要がある(風で煽られたりしないかしら、車にぶつけたりしないかしら)。もう1つ、海岸沿いの国道を走る必要がある(車に煽られたりしないかしら、トラックに抜かされるのはめっちゃ怖い…)。

勇気をだして、サーフボードを積んで、はじめての国道へ!

ああ、緊張する…。公道を走る緊張感なんて何十年ぶりか。いま、運転免許講習に通っているムスコはこんな気分なのかもしれない…。迷惑かけないかしら、事故らないかしら、交通ルールは守れているかしら。

後ろに車が来るたびにドキドキ。お巡りさんを見るたびにドキドキ。車の脇をすり抜けるたびにドキドキ。車を運転する自分には全く無かった視点。弱者の視点。ワタクシはスピードが出ない、か弱い原付乗りです。

車間をとってくれる車に感謝。渋滞や信号待ちで脇に余裕をもって停めてくれる車に感謝。自動車ドライバーのささやかな配慮にイチイチ感謝の心が湧いてくるのであります。

果たして自分はこれまで原付バイクに配慮して車を運転していたか。否。何も考えていなかった。相手の気持ちなど意識していなかった。その存在がほぼ、記憶にも視界にもない…。

原付の側になってみると…、相手を信頼しないと走れない。この車はきっと僕をひっかけずに抜いてくれるはず。この車はきっと突然、幅寄せしてくるような意地悪はしないはず。この車のドライバーはきっと僕にイライラしていないはず…。

原付は他者への「信頼」がないと乗れない乗り物だったのであります。相手を信頼し、信頼通りに行動してくれたら感謝をする。信頼と感謝。弱き立場の者が心穏やかに暮らす要諦がそこにありました。

でも、よくよく考えたら、強い立場も弱い立場もないみたい。道路というものは相手への信頼を出発点として成り立っているんじゃないかしら!赤信号で止まる、曲がるときはウィンカーを出す。急に発信しない…。普段、意識していないけど、他者も自分同様にルールを守る、という「信頼」が出発点じゃないと、怖くて公道を運転なんてできないじゃん…。

原付バイクという身体が晒された乗り物に乗ったから、ことさら意識しただけなのかもしれないけど、よく考えるとこの自動車社会はなかなかすごいじゃないか。

人間すごいな。そんなことに思い至った中年初心者原付ドライバーでした。

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