僕のママチャリのチェーンが切れた。
先日、私の愛車(錆だらけぼろぼろのママチャリ)のチェーンが切れました。妻からは廃車にして新しい自転車を買え、と言われているのだけどアタクシはその自転車を気に入っているのであります。
パトカーにも止められるボロボロの「ジジチャリ」
何の変哲もないぼろぼろのママチャリ。今どきの「ママ」は絶対に乗らないであろうママチャリ。電動じゃないし、おしゃれじゃないし、ギアもついていない。モスグリーンの古風なその見た目は「ママチャリ」というよりは「ジジチャリ」。
実際、先日はあるお店の前に停めておいて、お店から出てきたら無くなっていました。
まさか盗まれたか!?と思ったらほぼ同じデザインの(だけど少しきれいな)自転車が放置してありました。さては誰かが間違えたか!?と途方にくれていると5分ぐらいしておじいちゃんが私のジジチャリに乗って向こうのほうからキコキコと戻ってきました。「やー、ごめんごめん、間違えちゃったよ」、ですって。
スピード出ないし、坂を上るのはきついし、決しておしゃれではない(というかむしろ不審者)。潮風にやられて錆だらけでボロボロ。でもなんかその感じが嫌いじゃない。町に買い物に行くときも、山に仕事に行くときも、海にサーフィンに行くときも、私の愛車です。
ちなみに、お巡りさんに停められたことも何度もあります。
夜道、駅からの帰り道、ちゃんとライトをつけて走っていたのに、後ろからパトカーにサイレンを鳴らされて拡声器で止められたこともありました。「そこの自転車、止まりなさい!」(何も悪いことをしていないはずなのにドキドキしてしまうのはなぜだろう…)。
ある日、チェーンが切れました。
ここ1カ月ぐらい、その自転車に乗る度に毎度、チェーンが外れるようになっておりました(いちいち直すたびに手が汚れる)。それでも気にせず乗り続けていたらあるとき、バキッ!という異音とともにチェーンが切れてしまいました…。チェーンが切れた自転車に乗るのって大変。小さな子どもが乗る「ストライダー」のようにバタバタと太ももを使って漕ぎながら家に帰りました。
案の定、妻からは「そんな自転車は処分してしまいなさい」と言われるのだけど、どうにもそんな気分になれず。こっそりとひっそりと自転車を直しに行きました。
3分でチェーンを直してくれたK君。5年の重み
ヒラコサイクル。町に2つある自転車屋さんのひとつ。長男の平子は小学校の同級生。僕とは正反対のヤンチャな人生を送りながらも今は家業の自転車屋さんをやっている人。見た目いかついし、ぶっきらぼうなのだけど、優しい、愛のある頼れる男。ちなみに、原っぱ大学の逗子のフィールドは彼がいなかったら存在しなかったので僕にとっては大恩人でもあります(これはまた別の話なのでまた今度)。
そんなわけで自転車で困りごとがあるとヒラコサイクルにもっていくし、そこに平子がいれば、そのままダラダラと世間話をすることが多いのです。が、この日、彼はいませんでした。
お店の奥で自転車のスポークを組み立てていたのは若いスタッフのK君。
「K君、チェーンが切れちゃったよー」と伝えると「ちょっと待っててくださいねー」と返事。2、3分してK君がお店の外に出てきて、僕の自転車をガチャガチャと触って、切れたチェーンを見て、はいはーい、という感じで道具をとりに店内に戻りました。
慣れた手つきでチェーンを直してはめるとちょっと緩い。「チェーンが伸びちゃってますね」なんて言いながら今度はチェーンをひとつ詰めて短くして、自転車側のテンションを調整して油をさっと差して…。あっという間にいい感じのテンションのチェーンが装着されました。
その間、ものの3分ぐらい。僕はK君のその手つきとたたずまいを間近で惚れ惚れと眺めていました。職人の手、職人の動き。かっこいいなー。「K君、ヒラコサイクルに入ってどのくらいだっけ?」「5年になりますね」。
「5年かー。手つきがかっこよくて見とれちゃったよ」「これしかやってないですから」。
もう5年。
K君のことは小学生のころから少し知ってて。ラグビーのいい選手だったぼんやりとした記憶。そのあと、ラグビーで有名な高校だか大学だかに行ったけど、うまくいかずにフラフラしている時期があったと思う。フラフラしているなーなんて思っていたら気づいたらヒラコサイクルで働き始めていて。
最初の頃はお手伝い、丁稚みたいな感じだった印象。でもいつもお店にいて、いつ顔をだしても覚えて居てくれて挨拶してくれて。そんな感じからあっという間に5年。5年の迫力。「これしかやっていないですから」の説得力。
修理が終わったタイミングで平子が帰ってきました。入れ替わるようにK君は店内へ。平子とひとしきり世間話をして帰ろうかなと思って店内を覗くとK君はさっきと同じように集中してスポークを組み立てていました。
「好きを仕事に」みたいなこととはまた違う。流れ着いた先がたまたま自転車屋さんだった、そんな感じなのかもしれない。細かな経緯を知らないけど彼を受け入れたヒラコサイクルも、そこで着実に時間を重ねたK君もかっこいいな。5年という歳月の説得力。なんだかいいなぁ、と改めて思ったのでした。
ということで、元気になったジジチャリにまたしばらく乗ります。主治医がいるから安心して。

銀色の真新しいパーツが、K君が交換してくれたチェーンのパーツ。
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