しゃちょうと、とこやの不思議なお話。

ここ数年、ずっと私の頭の片隅にある不思議な体験を今日は書きます。何処にでもありそうな小さな、でもなんだか風変わりなエピソード。なんとなく公の場に書いてはいけないような気がしていて、これまで発してこなかったお話です。私が小学5年生か6年生の頃の話。
塚越暁 2025.11.11
誰でも

ここ数年、ずっと私の頭の片隅にある不思議な体験を今日は書きます。何処にでもありそうな小さな、でもなんだか風変わりなエピソード。なんとなく公の場に書いてはいけないような気がしていて、これまで発してこなかったお話です。私が小学5年生か6年生の頃の話。

当時(1990年ごろ)の私たちの暮らしはオカルトと日常の境界線が曖昧でした。当然、トイレには花子さんが居たし、音楽室のベートーベンの目玉は動くし、放課後、誰もいない音楽室からピアノの音色が鳴り響きます。人面犬目撃の噂が絶えなかったし、町はずれのトンネルでは上から白い服の女の人が落ちてくるらしかったし、小学校の池には普通に人面魚が泳いでいました。僕はUFOを呼ぶのに夢中だったし、ノストラダムスの大予言は怖くて仕方なかった。

なんだか懐かしくて素敵な時代…。

その頃、仲良かったE君という友人がいます。家が近く、気が合っていつも一緒に遊んでいたと思います。学校で流行っていたある試みをうちでやってみようと、E君が我が家に遊びに来ました。

その試みはいわゆるこっくりさん、みたいなやつでした。五十音を書いた紙のうえにコインを置いて、そのの上にふたりで指を置いて質問をするとコインが動く、みたいなやつです。怖さ半分、興味半分でやってみようということになり、やってみました。

が、コインはほとんど動かない。あるいは何だか動くんだけど、明らかにどちらからが力で動かしている感じ。ああそうだよね、と思ってその日はやめました。

それから数日か数カ月か経ったのち、今度は「星の王子様」というのが女子たちの間ではやりました。同じような仕組みなのですが、ちょっとだけアレンジされているという。

僕とE君はその話を聞いて、またやってみよう、ということになりました。この日のことはよく覚えています。放課後で、私の家のリビングで、我が家には僕とE君しかいなくて。

女子の友人から聞いたやりかたで広告の裏紙に文字を書いていきます。王子様の居場所を真ん中に配置(たしか星のマーク)。紙の上のほうに0-9の数字と、五十音と。王子様の両側にYESとNO。右下にカレーライス。左下にトイレ。どこか端の方にたしか、王子様の出口。

二人で1本のペンを握って星の印の上に立てて、呪文みたいなものを唱えて、王子様を呼び出します。

ここからがすごかった(と記憶しています)。前回のコインとは全然違う動き。ペンがスルスルスルーっと動くんです。「王子様いますか?」と聞くと「YES」をするっと囲む。「質問していいですか?」と聞くと「YES」を囲む。シューっとペンが同じ軌道で動くんです。迷いがないきれいな弧が描かれる。

このときのペンの余りにスムーズな動きを思い出して、書いてるだけで身震いします…(30年以上前の出来事なのに)。なんだかしょうもない質問をあれこれしたと思います。「〇〇ちゃんは僕のことを好きですか?」みたいなやつ。

この儀式をやるにあたって、女子からいくつかアドバイスを受けていました。そのひとつが、王子様はお腹が空くということ。「そうしたらカレーを出すんだよ。お腹が空くと王子さまは不機嫌になるから。」

「王子さま、お腹が空きましたか?」「YES」。

「カレーを食べてください」「YES」。

ペンがカレーのところにスルスルスルっと移動してカレーのところでグルグルグルっと動きます。

「おいしかったですか?」「YES」。

「トイレいきたいですか?」「YES」。

今度はトイレのところにいってグルグルグル。

「すっきりしましたか?」「YES」。

思い出すままに書いているけど、なんかすごいですね。

そして、私がクリアに憶えている核心の質問。

「塚越君は将来、どんな仕事をしますか?」。

ペンが五十音のもじをひとつずつ囲んでいきます。

「し」「ゃ」「ち」「ょ」「う」。「しゃちょう」。

「E君は将来、どんな仕事をしますか?」。

「と」「こ」「や」。「とこや」。

しゃちょうととこや。

当時、二人はバカ受けした記憶があります。「しゃちょう」だってー!「とこや」だってー!僕は大会社の「しゃちょう」をイメージしてなかなかいい気分でした。ふふふ、将来は「しゃちょう」だ。E君も確か、髪の毛を触るのが好きで、「とこや」に喜んでいたと思います。

そのあともいくつかしょーもないことを聞いたと思うのだけど、この質問以外は一切憶えていません。最後はちゃんと王子様には出口から出て行っていただき、使った紙は指定のやり方でバラバラに裂いてゴミ箱に捨てたはずです。こういう儀式はきちんと終えることが大事。

なんだか怖かったこともあったし、ブームが去ったこともあって、それ以降は一度も「王子様」を呼んでおりません。

そして、E君は小学校卒業とともに遠くの町に引っ越していってしまいました。「王子様」のことは彼と離れ離れになって以来、すっかり忘れておりました。

30年以上経って、ある時ふと思い至ったんです。「あ、俺、『しゃちょう』やってるじゃん」。

当時の純真無垢な少年が思い描いた羽振り良くてかっこいい大会社の社長ではなくて、零細企業をぎりぎりで回し続けている「しゃちょう」。イメージと全然違うけど、「しゃちょう」であることは間違いない。

で、それ以来、喉元に刺さった魚の骨のように気になり続けているんです。

E君は果たして「とこや」さんになったのだろうか…。

E君とは小学6年生以来、再会を果たしておりませんが、SNS全盛の時代、つながってはおります。遠い町で家族と暮らす彼の投稿をみて、彼が「とこやさん」かどうか秘かに探ったこともあるのですが、分かりませんでした。本人に聞けばよかったのですが、直接聞くのはなんだか憚られたんですよね…。

でも、この原稿を書くにあたって、意を決して、彼にメッセージを送ってみました。

・・・・残念ながら彼はこのSNSを離れてしまったようで、メッセージは既読になりません。答えは分からずじまい。でもきっと、答えが分からないままなのがいいことも世の中にはあるのです。

不思議は不思議のままで。

そういうことにしておきましょう。

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