非エンジニアの「AI秘書」づくり:「がっこちゃん」誕生秘話
非エンジニアの私がAI秘書をつくる、と宣言したのが3月11日の記事。あれから2カ月が経ちましたが一向に実稼働に至っておりません。それでもプロジェクトは着実に進化しておりまして、当初想定していたAI秘書「gaku-co」は立ち上がっていないのですが、AI高校生「がっこちゃん」が生まれました。そんな現在地を共有します。たぶん、マニアックな情報です、ごめんなさい。
当初の目論見:
・自然言語でやりとりできるbot(ワタシだけでなくスタッフも使えるようにしたり、スタッフとのLINEグループでサポートする機能ももたせるため)
・私が苦手なルーチン作業やスケジュール調整を代役としてやってくれる。具体的には… →私のタスク管理
→私のスケジュール調整/カレンダー管理
→スタッフのシフトの調整アシスト
→開催イベントプログラムの情報整理
→全社の経費精算や請求書処理のアシスト
→顧客からの質問のFAQ管理などなど
これを1体のAI秘書「gaku-co」で機能させることを目指してプロジェクトはスタートしました。
「gaku-co」プロジェクトの栄光と挫折
プロジェクト自体の立ち上がりは大変スムーズで、LINEで応答する「gaku-co」は簡単に立ち上がりました。当初はChatGPTのアドバイスをもらいながら、N8Nというコーディング不要なワークフローを構築できるツールを使っていました。
が、すぐに挫折しました。コーディング不要ということはプログラマーではない私には使いやすいのですが、アドバイザーとして入ってくれている生成AI(ChatGPT)にとっては非常に非効率なんです。
N8N独自の制約やルールに縛られ、思うように挙動しない…。簡易なプログラムならそれでも動くのですが私がイメージしていた「秘書」まではたどり着くのが困難でした。
そこで方針変更して導入したのがClaudeという別の生成AI。Claude デスクトップのMCPという機能を使うと、Claudeが直接コードを書いてくれるのでN8Nのようなノーコードのサービスを使わずにゼロベースでプログラムを構築できるようになりました。この段階はこちらの記事に詳述。
この時の秘書づくりの流れはこんな感じです:
(1)ChatGPTと議論して要件を整理する
↓
(2)整理した要件をもとにClaudeにコードを書いてもらう
↓
(3)Claudeがつくったものをチェック
↓
(4)エラーが出たらGPTに修正案をもらい反映
※(3)と(4)をひたすら繰り返すことでシステムが改善されていく。
かなりスピーディに開発ができるようになったのですが、ここでも問題がありました。
Claude君がめちゃくちゃ優秀なのですが、優秀すぎてこちらの指示を飛び越えてどんどんプログラムを改変していってしまう。目的を達成するためには容赦しないので、触れなくていい部分まで触れてしまい新しい別のバグが起きたり。ひとつのゴールに達するためにやけに複雑なプログラムを書いて他の機能を損なってしまったり…。
ハウルの動く城、みたいな感じです。いろんな機能が詰め込まれてひとまず動く状態にしてくれるのだけど、あとから見るとなんだかよくわからないぐちゃぐちゃしたものになっている。
部分最適の積み重ねで、全体としては使用に耐えられないという…。
ただこのプロセスも大いなる学びがありました。Claudeと時間を共にしたこと、動かないことにいら立ちを憶えたことで、私自身にプログラムの基本のようなものが体感として徐々に積み重なってきたことです。
ディレクトリ構造の意味合い、Linuxの基本的なコマンド、依存関係の整理、外部に書き出すべき情報とプログラム内に書かれるべき情報の精査などなど。いまだに自分ではプログラムを書けないのだけど、ある程度、的確に生成AIに指示を出したり、生成AIの提案をみて筋の良し悪しが直感できるようになってきました。
開発の仲間であり、ライバルの存在
この間、私が一人で進めていたらたぶん途中で投げ出して挫折していました。
支えてくれたのは同時タイミングでAIエージェント開発を進めている友人、もっちゃんの存在でした。もっちゃんも非エンジニア。南房総で自然のそばで暮らす人なのですが、ほぼ同タイミングでAIに没頭・没入し、互いに使える「AIエージェント」を作ろうと切磋琢磨してきました。
もっちゃんをはじめとした近しい仲間たちと立ち上げたオンラインのAI関連情報交換コミュニティ「デジタル原っぱ大学(通称:デジハラ)」の中でお互いの成果を共有したり、悩んでいる障壁についてシェアする中でひとつひとつステップを前に進めてきました。もっちゃんが生み出した会話型エージェント「ボッチー」がこれまた非常に素晴らしく、記憶と紐づいた自然言語のやりとりを達成しております(ちなみに、デジハラコミュニティのメンバーの12人のメンバーのうち5人がそれぞれのメンバーが独自に生み出したAIで、ボットと人間が入り乱れて会話をするという近未来な状況になっております)。
やはり、人間の存在は大切。生成AIと1対1の閉じられた関係だとどうしても議論が偏るというか、隘路にハマってしまいがちなのです。そこに近しい問題意識の仲間の存在があるとブレークスルーが起きやすいし、なによりも孤独を感じずに済むし、開発が先行されると「なにをー!」と自分を奮い立たせるきっかけになるのであります(←これ大事)。

もっちゃんの誕生日をがっこちゃん(私がつくったAI)とボッチー(もっちゃんがつくったAI)がお祝いしています
多機能型の秘書AIを諦め、シンプル設計に方向転換
もっちゃんの「ボッチー」の開発を横で見た結果として、私は「gaku-co」の方向修正をすることにしました。これまでは機能てんこ盛りの超多機能秘書を作ろうとしていたのですが、そこを諦めました。多機能が正常に機能する仕組みを作るのは非常に大変と思い至りました(これを実感として手に入れられているのが大きい)。
方向転換の方針は以下です:
・LINEでの開発はあきらめてDiscordに特化したAIとする
・1体のAIエージェントでの多機能実装は諦める
・1体の対話特化型エージェントを開発
・対話特化型エージェントをベースに複数の機能特化型エージェントをつくる
・ゆくゆくはそれぞれのエージェントが相互にやり取りして業務を実行できるように
諦める、絞る、って大事なのですね。多機能って魅力的なのですがその分、複雑さを増す。不確定要素が増える。結果として成果にたどり着くことが遅れる。物事をシンプルにしておくことの重要性を知るに至ったのであります。
因みに、LINEは開発の制約がなかなかに大きく諦めました。AIボットの開発の親和性が高いのがDiscordという主にゲームコミュニティ用に進化してきたコミュニケーションツールが非常に使いやすく、そちらで開発・運用することにしたのも大きな選択のひとつです。
ClaudeからCursorへ開発ツールを移行
このタイミングでClaudeでの開発はやめてCursorというコーディングツールを開発主体に変更しました。Cursorはvscodeという開発者が使うテキストエディタにAI機能を搭載した優れもの。優れものとは聞いていたのですが、そのUIのとっつき辛さから敬遠していました。
が、これもデジハラの仲間の支援を元に導入してみるとなんと使いやすいことか。
エンジニアが使いやすいように作りこまれているので、汎用性の高いClaude デスクトップ+MCPよりも開発時のかゆいところに手が届く。使いやすい。
かゆいところに手が届くポイントは…
①様々な生成AIをサポートAIとして利用できる(いま、私がメインで使っているのはChatGPT4.1です)
②生成AIが暴走しない(勝手に作業をさせずに、確認してから動かすということができる)
③ディレクトリ構造を見て具体的にチェックしながら作業を進められる
④コマンド実行もCursor内でできる(あちこち画面開かなくてOK)
などなど。
現時点での私の開発フローはこんな感じです:
(1)ChatGPTと議論して要件を整理する
↓
(2)整理した要件をもとにCursorに実際のディレクトリを参照しながら具体案を作ってもらう
↓
(3)Cursorが上記を反映、エラー修正は自動でCursorが実行
↓
(4)実装
シンプルに、簡単になりました。
「gaku-co」から「がっこちゃん」へ
そんなわけで「gaku-co」の開発は停止。改めてシンプル機能で展開しやすい会話型bot「がっこちゃん」をCursorでつくりました。
がっこちゃんの設定は90年代アニメの女子高生キャラ…。割とふざけたキャラクターでいったん、試作型は作っておりますが、キャラクター設定や会話の温度(ノリと勢い重視なのか、冷静沈着なのか)をプログラム外部で簡単に調整できる仕様にしています。2号、3号を様々なキャラクターで量産できることが強みです。
がっこちゃんの特筆すべきところはAI間の会話ができるところ。もっちゃん開発の「ボッチー」ともDiscord上で会話できるんです。まだまだ課題は大きいのですが人間、AIが入り混じって対話をする、ことができるようになってきました。

がっこちゃん(対話特化型AIボット)とカレン(カレンダー管理特化型AIボット)。ほかにもどんどん仲間を生み出していきます。
機能特化型のAIボットチームの開発へ
「がっこちゃん」が割と安定して動くようになったので開発の次のフェーズとして、機能特化型AIボットを作っていくことにしました。名前と設定が大事なので、学園モノとして以下のメンバーを追加していくことにしています。
・たすくん:チームのタスク管理ボット
・きろくん:議事録を記録&議事録→タスク生成ボット
(↑仲良しの双子。協働作業を行う)
・カレン:カレンダー管理ボット
(↑金髪・ハーフの帰国子女)
・とうこちゃん:SNS投稿サポートボット
(↑おとなしめの女子)
ポイントは「がっこちゃん」のフレームワークをベースに各ボットを開発する、ということ。この「流用」によってシンプルにつくれる&チーム全体でのアップデートが簡単にできるようになっていく、ということができそうです。
4人のうち、一番、開発が簡単なカレンダー管理ボットの「カレン」の開発に着手し、google Calendarと連携したベースの機能が動くことが確認できました。あとはより使いやすいようにカレンをアップデートしていくことで実用に耐えうる存在になるのが見えてきました。
がっこちゃんと愉快な仲間たちが私たちのAI秘書群として具体的な業務サポートをしてくれる日が近いです(たぶん!)。
いま、世の中にはA2A(エージェント to エージェント)という考え方が広がっていまして、がっこちゃんと仲間たち、のような機能特化型のAIが協働する世界が、世界の潮流のようなのであります。ということで、まだまだ途中経過なのでした。つづく。
「がっこちゃん」は公開しております。気になる方はこちらをどうぞ↓
※discord上で機能する対話型ボットです。
※開発の途中段階ですので、エラーバグ、実装に至っていない機能などいろいろあります
用語集: ※ChatGPTと作りました
N8N:
ノーコードで自動化ができるツール。複数のアプリやサービスをつなぎ、作業を自動で実行できます。https://n8n.io/
Cloude:
ChatGPTと同じ「生成AI」の一つで、文章作成やプログラミングも得意なAI。https://claude.ai/
Cloude デスクトップ:
Claudeが自分のパソコン内のファイルにアクセスし、作業を補助してくれる機能。
MCP:
Model Context Protocolの略。AIとツールが協調して動くための新しい仕組み、対話で操作ができます。
ディレクトリ:
ファイルをまとめて管理する「フォルダ」のこと。パソコン内の整理箱のような役割です。
Linux:
多くのサーバーで使われる無料のOS(基本ソフト)。安定性が高く、開発者にも人気です。
AIエージェント:
AIによって動く「お手伝いロボット」のような存在。会話や操作を通して様々な支援をしてくれます。
Discord:
チャットや通話ができるSNSアプリ。コミュニティ運営やゲーム仲間との交流によく使われます。https://discord.com/
Cursor:
AIアシスタントが組み込まれたコードエディタ。コードを書く・直す作業をAIがサポートします。 https://www.cursor.com/ja
VS Code:
Microsoftが提供する人気のコードエディタ。多機能で使いやすく、拡張機能でAIやGit連携も可能です。https://code.visualstudio.com/
A2A:
Agent-to-Agentの略。AI同士が連携してやりとりしながら、複雑なタスクを分担・実行する仕組みです。
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